「Noble Audio が音質に極振りした TWS を出す」
2021年10月、発表されたティザーではこれまでの Noble Audio のまさに「顔」だったマーブル模様のフェースプレートを携えたワイヤレスイヤホンが発表されました。
https://nobleaudio.jp/fokus-pro-teaser/
その後 2021年12月 初週、「すべてを音質にフォーカス」のキャッチフレーズでプロモーションが始まりました。
https://nobleaudio.jp/news/fokus-pro-2/
- Wizard Design(Noble Audio のマーブルフェース)
- 音質極振り
- 『限定生産品』
なるほど。これは聴かずに Noble Audio ファンは名乗れない。
その後の記憶はなく、発売日の 2021年12月17日 正午 手元に届いたのでした。
価格を知ったのはクレジットカードの請求額を見てからでした。すいません嘘です。
Noble Audio は米国に本拠地を構える高性能イヤホンメーカーです。
オーディオロジスト(聴覚博士・医師)であるジョン・モールトン博士が設計し、明確なメーカーの音を持ち、数々の名作と言われるイヤホンを開発しています。
Noble Audioとは - Noble Audio Japan (https://nobleaudio.jp/noble-audio/)
高性能イヤホンメーカーというだけあって、メインラインナップであるマルチドライバー機は最も安いモデルで 50,000円 スタートという一般的に「高額で高性能なイヤホン」を作るメーカーです。
その Noble Audio はこれまで Falconシリーズ という「同社としては」比較的安価な完全ワイヤレスイヤホン(Truly Wireless Stereo、以下TWS)を発売していました。
そして今回、Noble Audio は冒頭に紹介したティザーとプロモーションを発信します。
Nobleが本気で取り組む、“音質”最優先設計。 - Noble Audio Japan (https://nobleaudio.jp/fokus-pro/)
“音質”に振り切ったワイヤレスイヤホンがあってもいいのではないか。例えば、イヤホン本体の中に組み込まれたアンプを音楽再生だけのために100%使うことや、防水設計よりも音響設計を優先する、そんな、ともすれば時代に反するかのような問いに対して実験的に開発され、誕生したのが“音質ファースト”設計のFoKus PROです。
出典: Noble Audio Japan - Nobleが本気で取り組む、“音質”最優先設計。
製品のスペックなどは公式サイトをご確認ください。
全体的な印象
この記事は次の Spotify プレイリストを元に書いています。
パッケージのトータルとしては「本当に極振りしてきた」「いま出来ることをやってきた」という印象です。
※ 以下の印象は150時間程度経過した後の評価です。これについては別途後述します。
内容を3行でまとめると
- 奥行き方向に広い音場、高域は無理なく伸びる、中域は少し控えめ、低域は色っぽい、弾みのある楽しい重低域
- 樹脂製で軽くカスタムイヤホン然とした立体的な形状で耳への収まりがよく安定感が高い
- 通常の高遮音イヤホンと同じレベルの遮音性は確保できるが、ベント孔があるため屋外ではそこそこ音は入ってくる
- ケースの外装がアルミになって質感高いが、ヒンジがゆるく取り外し中に閉じたりして軽くストレス
- 人体は強い電波遮蔽物(思った以上に切れる)
- イヤピースケースが地味に嬉しい
FoKus PRO の最大の魅力は 反響した音が作る場の立体感、楽器のボディが鳴る振動感 にあると感じています。
自然に減衰する絶妙なチューニングを施された高域、楽器のボディに振動として残る重低音は音楽全体が明るく躍動感のある音に仕上げています。
そしてこの「低域」が FoKus PRO の評価をある種真っ二つにする部分でもあるようです。
残念なのはケースの ヒンジのゆるさ です。
ケース自体の質感は高いですが、ヒンジがゆるいため屋外で取り出すときに蓋が「パクっ」としまってしまうところがストレスです。
持ち運びをするケースであることを考えるとこのあたりは改善されていくと良いですね。
FoKus PRO はケースの構造で蓋を閉めると電源が切れるため、これに慣れるまでちょっとしたトラブルを1つ引いてしまい、現在代理店経由でメーカーに確認中です。
片方を取り出して装着中、蓋がしまってしまい電源が落ちて片側ペアリングだけの状態になっても焦らず慌てずケースに戻して左右共に電源が落ちるまで待ちましょう。
間違っても片耳だけの状態でリセットしないように。
あと、ワイヤレスイヤホンなんで当然接続は切れます。切れにくいかもしれませんが切れます。これは仕方ないです。電波ですし。
スマートフォン側の制御やアンテナ位置にも関係しますし、とくにイヤホンのサイズでは限界もあります。(の割にSonyのは切れにくいのでこのあたりはノウハウなんだろうなという気持ちです。
Pixel6ですがデニムパンツのポケットであれば前後問わずスマートフォンの入れ方次第で切れます。特に自分の腹が出ているとかは関係ないように思いますがわかりません。
傾向と音質
「音質に極振りした」のであれば真っ先にここをレビューしなければならないでしょう。
音のバランス
重低域 ■■■■■■■■■□
低域 ■■■■■■■■□□
中域 ■■■■■■□□□□
高域 ■■■■■■■□□□
10 段階評価の満点法ではなく、全体のバランスとしてこんな感じかと思います。
重低域に特徴はありますが、全体的には概ね低域寄りのフラットでしょうか。
音質
ウォーム □□□□■|□□□□□ クール
中域の使い方が非常に上手でウォームではありますが、低域が中域を何故か邪魔しないので非常にクリアで輪郭にボヤけは無く、高域の自然な抜けとので非常にオーディオ的です。
音質の所感
音質に関しては「極振り」なだけあって不満点は無いです。
バランス、質共に個性がハマったのでしょう。非常に楽しく音楽が聴けますし、実はこの重低域のおかげで映画とか見ると楽しいです。
防水を捨てたことで設置出来たのかどうかはわからないですが、ベント孔のおかげかよく沈み込み弾むような低〜重底域がやはり FoKus PRO の特徴でしょう。
中低域にかぶらず、音楽の輪郭や場の音圧をしっかり再現できるという点で高く評価をしています。
ちなみにダイナミックドライバーの口径は Falcon PRO の 6.0mm から大口径化され 8.2mm になりました。
面積比は 1:1.87 で Falcon PRO の 1.87 倍です。
高域は特に強く主張することはないですが、しっかりとその役割を果たす「働き者」です。
刺激的な音はしっかり刺激的で鮮やかに、バックで刻むリズムは主張せずでも消え入るような控えめさでもなく明瞭で音楽に明るさを与えています。
これは感覚的な話ですが、この低域を表現するにあたって高域側はかなり鮮烈な鳴り方をしているのではないかと考えました。これはドライバーの配置からも想像しましたが高域のチューニングがこの低域を活かしているのではないか、という仮説です。
幸いなことに FoKus PRO には専用のアプリがあり、イヤホン側にイコライザーの設定を送り込めます。
では、ということで低域を全落ししてみたところ、Noble Audio らしい硬質で鮮烈な高域が鳴っていました。
面白い体験なので是非試してみてください。
公式サイトにある構造の解説を見る限り、電気的なパッシブネットワークはなさそうです。
そうなると DD も BA もフルレンジの信号が入っているはずで、そこを制御出来る方法といえばドライバーの配置やハードウェアの設定でチューニングということなのでしょうけど、実際こうして聴いているとこれらは制御された音を出しているように感じるので不思議な気持ちです。
装着感
本体は決して小さくはないのですが、耳への収まりと安定感はとても良好です。
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左 Noble Audio FoKus Pro 右 Noble Audio KHAN(有線) |
本体の収まりに関しては個人差が大きいので、実際の「試着」をお薦めします。ぜひ店員さんにイヤピースをセットで持ってきてもらって試すのが良いです。
安定感が高いのはおそらく重量物であるドライバーが音導管付近に、バッテリーが(おそらく)中央付近に配置されている関係で外側に落ちる感じが薄いのではないかと想像しています。
イヤピースの選択で装着感も音も大きく変わるのが「イヤホンのおもしろところ」ですが、FoKus PROに関してはダブルフランジを使っています。
音導管自体は決して細くも短くもないので、「空気が漏れにくく面で接触して安定しそう」というという想像から試してみて初期装着のキノコタイプよりも良かったのでそのまま使っています。
繰り返しますが、「イヤピースの選択で装着感も音も大きく変わるのがイヤホンのおもしろところ」なのでまたそのうちいろいろ試してみたいと思っています。家にあるものはサイズが合わずどうしたもんか、と言った感じですが。
100時間というマジックナンバー
※ マジックナンバー(Wikipediaより)
今回 FoKus PRO は箱出しから 50 時間程度の間、極力長時間聴かないようにしました。理由はいわゆるエージングです。
販売直後にあった多くのレビューを見る限り、それらレビューと自分が初日にメモした感想に大きな違いはなく「低域の制動不足感、Noble らしい BA の鮮烈さ」と書いていました。
販売当日の自分
「弾む低域と明瞭で鮮烈な高域の Noble Audio らしいドンシャリ」
この記事の自分
「重低域に特徴のある低域寄りフラット」
見事なまでに潔い手のひら返しですね。
これも計測してそうなっているわけではなく、聴いた感じそう聞こえているというだけでそういった理論理屈があるということはわかりません。不思議なもんです。
Falcon シリーズ(特に Falcon PRO )も数時間放置して聴く度に雰囲気が違っていたこともあったので、箱開け直後は評価しないようにしていました。
ぐりむさんの技術メモ - NobleAudioの完全ワイヤレスイヤホンFALCONはフラッグシップを音を持って産まれた? (https://devlog.grim3lt.org/2019/10/nobleaudiofalcon.html)
その結果、年末に仕事が詰まってしまいこの記事を書き始めたのが年始で完全に PV として賞味期限を逸した状態にあるわけですが。
おわりに
現状、TWSでよく売れる価格帯は 5,000 - 20,000 円付近かと思います。(筆者調べ)
ANC 付き高性能TWSの代名詞にもなりつつあるソニー WF-1000XM4 がソニーストア価格で 33,000円 であることを考えると、近年標準装備とも言えるANC・防滴防水を敢えて搭載していない FoKus PRO の 49,500円 という価格は如何に「音質極振り」だとしてもかなり「攻めた価格」でしょう。
「絶対手が届かないわけではない高価格」「わかりやすいキャッチフレーズ」「限定品」という攻めやすい状況を作ったとも言えますが。。。
Falcon PRO の 30,000円 も「おいおい消耗品の TWS で?」と思いつつ買ったものです。
そして実際に購入して聴くと「ワイヤレスイヤホンもここまで来たらオーディオ趣味の人にも刺さる高音質製品がどんどん出てくるのだろうな」と思っていました。
その1年後またもや Noble Audio が FoKus PRO を世に送り出してきて同じことを繰り返すとは思っていませんでしたが。
限定生産、刺さる人に刺さってくれ!そういうコンセプトなのかもしれませんが、こうした各社のフラッグシップが一定数売れることで消費者のベンチマークになりつつ、「いつかはFoKus PRO」のように自身が選んだものが誇れる「攻めた」購買文化になればいいなと思います。
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